高遠弘美さん―産経新聞夕刊(大阪版)で連載が始まりました - 光文社古典新訳文庫


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高遠弘美さん―産経新聞夕刊(大阪版)で連載が始まりました

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産経新聞(大阪版)の夕刊文化欄で高遠弘美さん(『失われた時を求めて』『消え去ったアルベルチーヌ』の翻訳者)の連載が始まりました。

タイトルは「プルーストと暮らす日々」
高遠弘美さんの生活がどのようにプルーストと結びついているのか、その日常が綴られます。毎週木曜日の掲載ですが、大阪版限定の連載のため、このブログに転載させていただくことになりました。ご期待ください! (※紙面での掲載から1週間後にブログへ転載いたします)
■「プルーストと暮らす日々 1」PDFファイル >>


悲劇を越え、祈り込めて

「文学はどこまでも人間的なものである。文明に対するさまざまな脅威に抗し、あまたの悲劇を乗り越えて連綿と書かれてきた。悪や退廃を描こうと、そこに連ねられた言葉はどこか祈りに似ている。『失われた時を求めて』も例外ではない。一見遠い国の、私たちとは無縁の社会や人々を描いたかに見えて、じつは深く関わりうる作品なのだ。
 惨禍のなかでいち早く人間らしさを取りもどした人々の姿に励まされながら、私は目の前の個人訳を進めるほかない。私の生活はどうプルーストと結びついているのか。次回以降、それを綴ってゆきたい。」



第2回 5月19日(木)掲載記事はこちらです。↓ ↓近日中に第3回もブログでご紹介します。

プルーストと暮らす日々 2

 タイトルに惹かれて読み始める本がある。プルーストの『失われた時を求めて』などはその最たるもので、その適度な長さといい、どこか謎めいた雰囲気といい、一度目にしたら忘れられない書名と言えるだろう。人間誰しも次から次へと押し寄せる時間の波に流されて、右往左往せざるを得ない。時間は無意味に失われてゆくだけだ。そんなむなしさをかかえているからこそ、この題名は心にすっと入ってくる。若き私もそうだった。

父を小五で亡くし、兄が東京の大学に入ってからの数年、私は最愛の母親とふたりきりで暮らしていた。貧しいながらも、今からすれば至福の時だったかもしれない。その母が急死したのは高三の夏だった。朝の「行ってらっしゃい」という言葉が、母の最後の言葉だった。夕方帰ると倒れていて、そのまま死んだのだった。

翌春、大学に入った私は母親の死の悲しみから逃れるかのように、手当たり次第に本を読んだ。『失われた時を求めて』と出会うのは時間の問題だった。当時のフランス語の授業はいまほど実用的ではなく、かなり文学的で、私は翻訳を読む前に『失われた時を求めて』の原題を知ることになった。その響きが日本語題名と同じように、十八歳の私の心に届いたのである。

唯一出ていた六人による全訳は絶版だったから、やむなく大学図書館で借りて読み始めたが、つねに誰かがどこかの巻を借りていて、なかなか一気に読めない日々が続いた。大学三年になり仏文科に進んだ私の心を占めていたのはプルーストの全訳を買いたいという欲求だった。古本屋で全巻揃いで二万円近くする本など、両親のいない仕送りなしの勤労学生としてはとても手が出ない。思い悩んだ末に兄に相談したところ、買ってやると言う。金を受け取った足で古本屋に行った。一九七二年十一月十八日のことである。

まったくの偶然だが、その日は、プルーストが世を去ってちょうど五十年後の命日だった。以来、プルーストに導かれる日々が続いている。



また、月刊『ふらんす』(白水社)でも4月号から連載が始まっています。こちらは、「対訳で楽しむ『失われた時を求めて』  スワン家のほうへ」と題して、原文に訳、注をつけ、細やかに解説されています。この連載もバックナンバーをブログに掲載していきます。お楽しみに!




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失われた時を求めて 1 <全14巻>
第一篇 「スワン家のほうへ I」

プルースト/高遠弘美 訳
定価(本体952円+税)


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2011年6月 1日 光文社古典新訳文庫編集部 |


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