高遠弘美さん--産経新聞夕刊(大阪版)連載 第32回「プルーストと暮らす日々」 - 光文社古典新訳文庫


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高遠弘美さん--産経新聞夕刊(大阪版)連載 第32回「プルーストと暮らす日々」

産経新聞(大阪版)の夕刊文化欄で連載中(毎週木曜日掲載)の高遠弘美さん(『失われた時を求めて』『消え去ったアルベルチーヌ』の翻訳者)「プルーストと暮らす日々」の第32回をお届けします。

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プルーストと暮らす日々 32

一九九七年のクリスマス当日は、私にとってすこぶる悲しい日となった。

師と仰ぐ作家の中村真一郎が忽然として世を去ったからである。その一ヶ月ほど前、東京・乃木坂の先生の仕事場でお目にかかったばかりだった。そのときの先生は壮健そのもので、さまざまなお話をしてくださったから、突然の訃報はまさに寝耳に水だった。

中村真一郎は戦後派を代表する文学者に数えられるが、小説以外にも評伝や批評、詩歌や俳句、演劇の分野でも輝かしい仕事をのこしている。著書は三百冊を下らないだろう。

先生はまた、フランス文学の翻訳をいくつもしていらして、その中にプルースト『失われた時を求めて』の共訳がある。

若い頃からプルーストに傾倒した中村先生は最初の長編五部作『死の影の下に』をプルーストの影響下に書き始めただけでなく、後年になるまでプルーストについて、エッセイで何度も触れている。亡くなった年に書かれたエッセイにも「私にとって未来の小説への巨大な領域を開示してくれたプルースト」という言葉を書きつけたほどだ。

十代の頃より中村真一郎を精神の師として仰いでいた私は、先生がエッセイにたびたび書くプルーストと『源氏物語』は必読書だと考えていた。それゆえ、いずれも二十代はじめには読み終えていたけれど、とくにプルーストの翻訳を最初に通読したのは、中村先生が共訳者に加わっている新潮社のグループ訳だっただけに、その後、自らプルーストを専攻するようになってからも、中村真一郎の名前のはいった新潮社版はお守りのように書棚に置いていたのだ。

その後、実際に中村先生の謦咳に触れることができたときに、プルーストについてもお尋ねしたのだが、プルーストの翻訳そのものについては聞き逃した。我が身の迂闊さが悔やまれる。

小説家中村真一郎は、文体の面でもプルーストから多くを学んだ。私も翻訳の文体に迷うたびに、中村真一郎の小説に何度も立ち返りながら自分の文章を鍛え直している。
(2011年12月22日 産経新聞(大阪版)夕刊掲載)

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2011年12月29日 光文社古典新訳文庫編集部 |


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