高遠弘美さん--産経新聞夕刊(大阪版)連載 第66回「プルーストと暮らす日々」 - 光文社古典新訳文庫


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高遠弘美さん--産経新聞夕刊(大阪版)連載 第66回「プルーストと暮らす日々」

産経新聞(大阪版)の夕刊文化欄で連載中(毎週木曜日掲載)の高遠弘美さん(『失われた時を求めて』『消え去ったアルベルチーヌ』の翻訳者)「プルーストと暮らす日々」の第66回をお届けします。今回が最終回です...(ブログにはこれまでの連載をすべてアーカイブしてあります。)

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プルーストと暮らす日々 66

京都に住む画家・エッセイストの林哲夫さんから「まぼろしの高桐書院版『失われた時を求めて』をめぐって――淀野隆三日記より」というご高文を収録した雑誌を頂戴した。いくつか固有名詞が飛び交うことをお許し願いたい。

淀野隆三は仏文学者・批評家で、最初は創作を発表した。一九三一年、佐藤正彰と共訳で日本初の『失われた時を求めて』訳の単行本を最初の部分だけではあったが刊行し、戦後の新潮社版全訳にも参画した。

林さんの記事によれば、一九三六年頃、伊吹武彦、井上究一郎ら四人の共訳による全訳の企画があった。そもそも詩作を志していた井上がプルーストの翻訳に関わることになったきっかけは、旧制高校と大学の先輩である淀野に勧められたからだったという。

伊吹は旧制高校時代の井上の恩師で、かなり早くからプルーストに注目していた。しかし戦争が激しくなり、すでに刊行が始まっていた五来達(ごらいとおる)個人訳も中断。プルースト全訳の試みは頓挫したままだった。

戦後になって、二つの動きが起こった。ひとつは淀野の関係していた高桐書院からの井上訳。もうひとつは創元社からの伊吹訳である。事態はさらに動き、版権取得に手を挙げた翻訳者は計六人にも及んだ。その中で優先権を得たのは伊吹だった。しかし、伊吹も、伊吹に続く井上も他の仕事に忙殺され、プルースト個人訳は断念せざるを得なかった。伊吹、井上ら六人の共訳で新潮社から全訳が出始めたのは一九五三年のことである(井上の全訳は一九七三年から)。

淀野が三年前に明治大学教授になった佐藤に続いて明大教授になったのは、私の生まれた年である。

環暦を迎えた私はさまざまな縁に支えられつつ、明治大学の派遣研究員としてパリにいながらプルースト個人全訳に取り組んでいる。

一年半近くに及ぶこの連載も今回が最後である。この間、あまたの方から励ましのお言葉を頂いた。ここに感謝を申し上げるとともに、皆さまがプルーストと過ごす日々がこの先も続くことを心から祈りたい。
(2012年8月30日 産経新聞(大阪版)夕刊掲載)

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2012年9月 6日 光文社古典新訳文庫編集部 |


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