3月刊『ご遺体』解剖! - 光文社古典新訳文庫


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3月刊『ご遺体』解剖!

古典新訳文庫の傭兵編集者Oです。

今回は2013年3月新刊のイーヴリン・ウォー『ご遺体』をご紹介させて頂きたいと思います。

ご遺体イーヴリン・ウォーはイギリス近現代文学では重要な作家ですが、まあしかしそんなことはさておき、とにかく誰でも読んで楽しめる作品なのが本書『ご遺体』です。社内でもよく『お葬式』とか『ご臨終』とか間違えられますが、『ご遺体』です! ご注文の際にはお間違いなきよう。

さて、全体を貫いているのはいわゆるブラック・ユーモアというやつですが、twitter風にいうところの「ちょwwwwww」みたいな感覚が一番近いかも。「古い社会」と「新しい社会」の両方に対して痛烈な皮肉をこれでもかとひっかまして笑わせつつ、ちょっと驚く結末も用意されています。

イギリス文学なのに、本書の舞台はハリウッド。まず登場するのは、渡米して映画業界で働いているイギリス人たち。自分たちがイギリス人であるということを生きる拠り所とし、そのコミュニティの体面をやたらと気にする人々です。本書の主人公デニス君もイギリス出身の元詩人なんですが、現在は映画会社を解雇されて、ペット葬儀社に勤めています。イギリス人たちは彼の仕事に眉をひそめ、機会を見て彼を本国に送還したいと考えています。

いっぽうのデニス君は、実はその仕事がわりと気に入っているのですが、彼が自分の提供するサービスの参考にしているのが、セレブ御用達でもある「囁きの園」という葬儀社兼霊園。葬儀から埋葬まで顧客のさまざまなニーズに対応し、心温まるセレモニーを演出してくれます。霊園のほうも彫像や有名建造物のレプリカに溢れてテーマパークみたいで、たぶん箱根彫刻の森美術館と東武ワールドスクエアを足して二で割ってお墓にしたような感じかと。いまの日本だと葬送・埋葬のしかたがいろいろなのはわりと自然ですが、当時のキリスト教圏だとかなり風変わりだったのかもしれません。

デニス君はひょんなことから「囁きの園」で働く遺体化粧係のエイメに恋をすることになります。彼のロマンチックなポエム攻撃(剽窃だけど)にまんざらでもないエイメですが、実は彼女はもう一人、上司で業界屈指の遺体処理師であるジョイボーイからも猛烈に(気色悪い)アプローチをかけられています。彼の仕事は、硬直していたり表情が崩れていたりする遺体をお葬式に向けて修復することなのですが、作業の下流でスタンバっているエイメに送られる死体だけなぜか微笑しています。「あなたを見るとご遺体もほほえむんですよ」「まあ、ジョイボーイさんたらっ」的な(まさに)微笑ましいオフィスラブです。

この三角関係が今後の展開のベースになってくるわけですが、この他にもエイメの唯一の相談相手である新聞コラムの「導師バラモン」、ジョイボーイの母親とそのペットのオウム、ペット葬儀屋の店主(意外といいやつ)など、一癖も二癖もある登場人物(と動物)が話を盛り上げ、かつ思わぬ方向に転がしていくのです。『ご遺体』の面白いのは、これらの人物の設定が突飛なのにそれなりにリアルで、絶妙な胡散臭さを放っているところだといえるでしょう。個人的には、「導師バラモン」のいわゆる「中の人」が、10年くらい前の会社には必ず一人はいたおっさんのタイプを思い出させて、なかなかツボにはまります。

読んで面白くて終わり!でもいいんですが、実はデニス君やエイメの心の動きなどを追っていくとなかなか深いところもたくさんありまして(そのあたりが本作が文学たるゆえんなのですが)、新訳に際して気を遣ったところでもあります。エイメ・タナトジェノスという名前に隠された宿命、そこここに出てくる文学をネタにしたひねりなど、ちょっとした場面でも目が離せないのが本作の特徴です。

また、古典新訳文庫名物の「解説」と「年譜」もひとつ楽しく読んでいただければと思います。これによると、ウォーはそもそも自分の作品の映画化の打ち合わせのためにハリウッドに行ったところが、いろいろ見聞しているうちに巨大葬儀産業に目をつけ、結局それを元に『ご遺体』を書いたらしいです。当初は、アメリカの葬儀業界の反感を買ったため、葬儀してもらえないかもしれないからアメリカで死ぬのはいやだと言ったとか言わないとか。こういうバックグラウンドも興味深いですよね。

鬼才ウォーのユーモアが炸裂する本作をぜひこの機会にお読みください!

ご遺体

ご遺体

  • イーヴリン・ウォー/小林章夫 訳
  • 定価(本体876円+税)
  • ISBN:75266-8
  • 発売日:2013.3.12

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2013年4月 3日 光文社古典新訳文庫編集部 |


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