シンポジウム「観てから読むか、読んでから観るか──文学と映画のあいだ」レポート - 光文社古典新訳文庫


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シンポジウム「観てから読むか、読んでから観るか──文学と映画のあいだ」レポート

7月13日。小雨含みの曇り空の土曜日。夏休みが近いこともあって、いつもより人影がまばらな印象の東京・本郷の東大構内――。しかし、その静けさが、午後3時前になると二百名を越える老若男女によって破られた。彼らが集まったのは、法文2号館の2階2番大教室。座り切れない大勢の人たちが立ち見客になって壁沿いに居並ぶという、時ならぬ盛況ぶりだ。

行われたイベントは、共同編集『文学と映画のあいだ』 (野崎歓/編、東京大学出版会)の刊行記念として開催されたシンポジウム「観てから読むか、読んでから観るか──文学と映画のあいだ」(主催:東京大学文学部フランス語フランス文学研究室、共催:東京大学文学部現代文芸論研究室、東京大学出版会)。司会役は、『文学と映画のあいだ』の編者であり、『ジャン・ルノワール 越境する映画』(青土社、サントリー学芸賞受賞)や『香港映画の街角』 (青土社)といった映画関連の著書のほか、『ジャン・ルノワール自伝』 (みすず書房)の翻訳もある筋金入りの映画フリークス、フランス文学者の野崎歓さん(スタンダールの『赤と黒』、ヴィアンの『うたかたの日々』、それにサン=テグジュペリの『ちいさな王子』の翻訳で古典新訳文庫でもお馴染み)。自身の映画体験のエピソードをまじえながら、冗談交じりの軽妙な進行が続いていく。

シンポジウムは、前半がロシア・ポーランド文学の沼野充義さんとアメリカ文学の諏訪部浩一さんによる講義形式の二つの話。後半は、作家の辻原登さんが語った子どもの頃からの映画体験をネタにした口述エッセイという趣の話を枕に、辻原さんを囲んだ進行役の野崎さんを含めた三名の参加者が、四人一緒に繰り拡げる「文学(主に小説)と映画」についての質疑応答と、そこから派生した気の置けないそれぞれの語り。そんなリラックスした雰囲気だからこそ時に差し挟まれる、思いがけない真摯なコメントが、期せずして映画に対するそれぞれの熱い思いを感じさせ、ときに聴衆の人たちが持っている、あの映画この映画の記憶を楽しく刺激していく。

以下、当日の雰囲気を具体的に伝えるために、たとえば前半の講義で沼野さんが話した「文学を原作にした映画の効用」という話を簡単に紹介すると...。一つは「原作と違うと文句を言える」こと。これは映画を非難しているわけではなく、原作とは違うと議論すること自体が意味深く面白いのだという。たとえばタルコフスキーの「惑星ソラリス」はレムの原作とは方向性が違う。だが、そのこと自体が大切だというわけだ。次に「文学では見られないものを映画にすると見ることができる」こと。たとえばカフカの『変身』の主人公が変身した「毒虫」とはどんな虫なのか。カフカ自身は、視覚化してはいけないと考えていたが、映画化するときは絵にしないわけにはいかない。ロシアのワレーリイ・フォーキンという演劇人が映画化しているのだが、それを見ることには、見てはいけないものを見る楽しみがあったと。そして『アンナ・カレーニナ』『カラマーゾフの兄弟』などの「読み切れない長い作品」でも、「二時間ていどで読んだ気になれる」こと。ざっとそんな効用が、ユーモラスに、かつ真面目に展開されたというわけだ。

そんな楽しいシンポジウムだったが、最後にこの催しのきっかけになった『文学と映画のあいだ』の目次から主要な記事を抜粋で紹介しておく。面白い本なので興味のある方は、どうぞご参考に。


『文学と映画のあいだ』(野崎歓/編 東京大学出版会)
● 文学と映画の「あいだ」を考える(野崎歓)
● シェイクスピアと黒澤明の文化的可能性(大橋洋一)
● ここでしか教えてもらえないロシア映画を観る5つの効用(沼野充義)
● 余華の小説『活きる』と張芸謀の映画『活きる』(藤井省三)
● 世界は映画で出来ている(柴田元幸)
● ノワール小説とフィルム・ノワール(諏訪部浩一)
● 革命を批評する文学と映画(野谷文昭)

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2013年8月 2日 光文社古典新訳文庫編集部 |


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