『すばらしい新世界』を読もう! 筑波大附属駒場高校「ぶらり読書会」見学レポート《ぶらり読書会、議論編》 - 光文社古典新訳文庫


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『すばらしい新世界』を読もう! 筑波大附属駒場高校「ぶらり読書会」見学レポート《ぶらり読書会、議論編》

前回は、筑波大附属駒場高校で実際に行われている読書会の、その運営について紹介しましたが、今回は具体的にそこで出た意見などをいくつか紹介していきたいと思います。といっても、意見交換や議論は3つのテーブルで行われていますので、自分が見学していて捉えられた範囲での紹介になりますので、あくまで部分的なものであることをご理解頂きたく思います。

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●この物語には感情移入できる登場人物がいない
→たとえば『1984年』は単純で、主人公に肩入れせざるをえない。
→逆に、感情移入できないからこそ「新世界」を客観的に見られるのかも。
これとは逆の意見も...
→『1984年』は、なぜ主人公が最初から体制に違和感を持っているのか理解できない。その時点で、そもそも「理想の社会」が破綻しているのでは?
→劣等感を持っていたはずのバーナードが人気を得たとたんに威張りちらしたり、だんだん頼りないダメ男になったりする様子には共感できる。
●単純な読後感として、この『すばらしい新世界』の社会にはイヤなものを感じるし、この世界に生きたいとは思わないが、しかし「なぜイヤなのか」はうまく説明できない
→自分の個性を発揮できない環境なのではないか?(アルファ階級なら発揮できるんじゃないかという意見もあり)
→イプシロン階級など、可能性が削られているのは「抑圧」なのでは?
→また、抑圧されている、ということすら考えさせない「条件付け」の仕方に反発を覚える。
逆に、これはこれで1つの理想の世界なのでは、という意見もありました。
→読者の側は、「価値がないと生きていけない」と思い込んでいるのでは?
●この世界は安定しているのか、不安定なのか
→「異端者」が育ったり「エラー」が起こったりする余地がない、すなわち進歩・進化する余地がないのは生物学的には「安定している」とは言えない(これは大学で生物学を学んでいる学生の意見)。
→異端者は殺されるのではなくて、島送りにされるのはなぜか。
→そこを殺してしまうと、社会の反感を買い、単なる恐怖政治になってしまうのでは。
→結局、世界統制官(ムスタファ・モンド)も異端。この世界が閉じたものではない、ということを知っているのは世界統制官だけ。彼は異端だからこそ、社会で起こった問題(エラー)に柔軟に対応できる。
→つまり、「すばらしい新世界」の安定性は、異端者が統制官になることで確保されているのではないか。
→ところで、ムスタファ・モンドが死んだら、次は誰が世界統制官になるのか。
→途中まで、ジョンが次の世界統制官になるのではないか、と予想しながら読んだ、という学生さんもいました。
●この話は架空なのか、現実の延長なのか。現実味がない。
→資本主義といいながら、お金に貪欲な人はあまり出てこない。
→アルファ、ベータプラスなどの階級は固定されていて、階級間の差別や蔑視はあるが、同じ階級のなかでは競争の意識がない。同じ階級でも違う仕事についている場合、その違いから来る競争意識というものはないのだろうか。
→「競争意識の欠如」が前提?
●神や宗教について
→「幸福」が絶対的唯一の基準になっているが、善や道徳との関係はどうなんだろう。
→芸術や科学を捨てたというのは、真理の追究や自由を捨てたということなのではないか。
→これはカントの『実践理性批判』で考察されている問題で、幸福と徳は両立するか?ということにつながる(これは編集部の感想)。

こういった議論が3つのテーブルで散発的に、時に同時進行でわき起こり、あっちの議論がこっちにつながり...という発展の仕方が、なかなか興味深いものがありました。

生徒さんたちによるディスカッションのあと行われた、翻訳者の黒原敏行さんを囲んでの質疑セッションでは、ユーモアをどうやって訳すのかといった翻訳上の苦労のこと(「本作のような笑える話は翻訳が難しい」、「面白い言葉遊びになるところがあれば冒険的に取り入れることもある」とのこと)、翻訳期間のこと(「実働3カ月半くらい」)などについて質問がありました。編集部に対しても、どうやって企画をつくっているのか、といった質問や、大きい字のほうが断然読みやすいといった意見がありました。

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質問に応える黒原敏行さん(右端)

生徒さんたちの議論を聞いたあとで感じたこと
●ディストピアを語るときに、もはや世代的にソ連のイメージはまったくない

大人がこういう作品を読むと、思想統制された全体主義的国家か、あるいは謎の超大国としてのソ連を思い浮かべがちで、ともすると「だけどそれは当時のアレだよね」的に現実と紐づけして終わりになってしまいがち。しかし、そういう先入観なく純粋に物語を分析していくことで、物語に隠された「現代に本書を読むことの新たな意味」みたいなものを見つけられるのではないか、とふと思いました。

●若い人は純粋で、正義感がつよい!

もう中年にさしかかった私などは、あんまり何も考える必要ない世界、ソーマという薬で副作用なく幸せが味わえる世界なら、それでいいんじゃないのと思いがちですし、人の弱さみたいなものについてもだんだんと寛容になってくるのですが、高校生の社会の見方のほうが、正義感に満ち、潔癖で、ゆえに社会に感じる歪みや違和感に敏感に反応している気がします。これは逆にいうと、同じ本でも、人生における違う年代で読むと、まったく違う印象や感想が得られる、ということの証左かもしれません。

●読書会をきっかけに他の文化にも興味を持ってほしい

『すばらしい新世界』では、違う場所で違う人物から発せられるセリフを積み重ねていくことでスピーディーに物語が展開する箇所があるんですが、そこについて生徒さんが「まるで平田オリザの戯曲のよう」と表現されているのを聞いてびっくり。高校生でそんなこと思いつく? あとで調べたら筑波大附属駒場高校は演劇で有名な学校なんですね。本でも演劇でも音楽でも、なにか比較できる対象を持っているというのは、作品を相対化して客観的にとらえるうえで重要なことと思います。筑駒はやっぱりすごい!というのもありますが、ぜひ他でも、たとえばこういう読書会をきっかけにして、生徒たちが自分の興味を発展させていってもらえたらと思います。そういう興味を後押ししてあげるのは大人の仕事かと。光文社古典新訳文庫の作品がその一助になれば幸いです。

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すばらしい新世界

すばらしい新世界

  • オルダス・ハクスリー/黒原敏行 訳
  • 定価(本体1,048円+税)
  • ISBN:75272-9
  • 発売日:2013.6.12

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2013年8月19日 光文社古典新訳文庫編集部 |


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