連載「"不実な美女"たち──女性翻訳家の人生をたずねて」(vol.1 小尾芙佐さんに聞く 1回裏) - 光文社古典新訳文庫


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連載「"不実な美女"たち──女性翻訳家の人生をたずねて」(vol.1 小尾芙佐さんに聞く 1回裏)

vol.1 小尾芙佐さんに聞く 1回裏あのころ、あの本、あんなこと

裏の回では、1回表に登場した小尾芙佐さんの愛読書、当時の出版や翻訳事情、関連する本などをご紹介します。

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雑誌「新青年」について

小尾芙佐さんのお父さんが愛読していて、あちこちに山積みになっていた「新青年」は、博文館から1920(大正9)年1月に創刊された雑誌だ。

「当初は題号が示す通り、新しい時代の雄飛を促す総合雑誌であったが、初代編集長の森下雨村が呼び物として推理小説に白羽の矢を立て、創刊時から翻訳推理小説を載せるとともに創作の短編推理小説を募った。」* 1921年には翻訳ものを集めた増大号も刊行し、作家や翻訳者(当時は両方を兼ねる人が多かった)の活躍の場となった。
*長谷部史親「昭和翻訳者列伝」(「翻訳の世界」1989年1月号 特集 証言!昭和の翻訳)より

「新青年」春期増刊号(1940年)[提供]ミステリー文学資料館
「新青年」春期増刊号(1940年)
協力・ミステリー文学資料館

1923年には江戸川乱歩が「二銭銅貨」でデビューを飾ったのも「新青年」、1927(昭和2)年には横溝正史が2代目編集長になり、探偵・推理小説ばかりではなく、ファッション、映画、海外ニュースなどモダンな紙面づくりが好評を博した。3代目の延原謙、4代目の水谷準、5代目・乾信一郎と、翻訳も執筆もする人物が、編集長を担った。しかし、第二次世界大戦となり英語が「敵性語」とされるなかで、英米圏の作品は掲載されなくなり、翻訳ものが名物だった増刊号も1940年春号で終りとなった。

「新青年 復刻版」は中島河太郎監修、国書刊行会、全8巻(1985)が出ているが、 翻訳ものだけ集めた傑作選としては『新青年傑作選 第4巻 (翻訳編) 』(中島河太郎 編、立風書房、1991)がある。

なお、翻訳もの以外の傑作選は色々あるが、ミステリー文学資料館編としては 『悪魔黙示録「新青年」一九三八  探偵小説暗黒の時代へ』(光文社文庫)、『江戸川乱歩と13人の新青年〈文学派〉編/〈論理派〉編』(光文社文庫)『「新青年」傑作選 』(光文社文庫)がある。

●クリックで拡大

  • img_ssenz_400.jpg「新青年」創刊号(1920年)
  • img_ssen7_400.jpg「新青年」7月号(1924年)
  • img_ssensz_content_800.jpg「新青年」春期増刊号(1940年)目次
  • img_ssen7_content_800.jpg「新青年」7月号(1924年)目次

● 翻訳事情を知るために......
乾信一郎著『「新青年」の頃』(早川書房 1991)

乾信一郎著『「新青年」の頃』(早川書房 1991)著者である乾信一郎(1906-2000)は小説家・翻訳家で、「新青年」第5代編集長だった。学生時代にダメもとで「新青年」に翻訳を投稿したところ、横溝正史編集長に採用され、それが縁で「新青年」編集部員になる。右も左もわからないなか仕事を覚えていく様子がユーモアを交えながら回想される。翻訳では(でも)食べていけない厳しい時代であり、版権おかまいなし、原文大幅省略(抄訳)ありの、ゆるくて自由な1900年代初頭の雰囲気が伝わってくる。

「よそでやっていることは、やらないというのが『新青年』のおきて」であり、「古き、よき時代であった。戦争がなければ」と振り返る。

長谷部史親『欧米推理小説翻訳史』(本の雑誌社 1992→双葉文庫 2007)

アガサ・クリスティー、ヴァン・ダイン、ジョンストン・マッカレー、フリーマン・ウィルズ・クロフツ、モーリス・ルブランなどの作品を、誰が、どのような媒体で翻訳していたのかを追跡している。ミステリー小説において「新青年」が果たした役割の大きさとともに、戦前の短命だった雑誌「新趣味」「秘密探偵雑誌」(のちに「探偵文藝」)「探偵小説」「ぷろふいる」なども登場する。当時の翻訳家・編集者たちの人間関係や、日本の読者に海外作品がどのように受け入れられていったのかが垣間見えるのも興味深い。本作は第46回日本推理作家協会賞を受賞。

小尾芙佐さんが衝撃を受けた江戸川乱歩『人間椅子』
江戸川乱歩『人間椅子』
『江戸川乱歩全集 第5巻』(平凡社 1931)
協力・ミステリー文学資料館
光文文化財団 ミステリー文学資料館ウェブサイト

旧江戸川乱歩邸

レンガ造りの建物が並ぶ池袋西口の立教大学に隣接して、江戸川乱歩が住んでいた家がある。「46回の引越の末に行き着いた」47軒目の住まいで「71年間の生涯のうち31年を過ごした」大好きな家だった(孫・平井憲太郎氏「旧江戸川乱歩邸・ガイドブック」より)。昔の洋館ふうの趣がある木造家屋で、庭の奥には2階建ての土蔵が建っている。蔵書は『古今和歌集』や『好色一代男』『好色五人女』など古いものも含め4万点にものぼる。男色関係の貴重な資料もあるという。

ぎっしり本が並ぶひんやりとした蔵も、応接室のブルーのソファも、ミステリアスな雰囲気を醸し出している。

「旧江戸川乱歩邸・ガイドブック RAMPO GUIDEBOOK」
「旧江戸川乱歩邸・ガイドブック
RAMPO GUIDEBOOK」
2010年発行 本体476円
旧江戸川乱歩邸の詳しい情報は下記サイトをご覧ください
立教大学創立130周年記念事業 旧江戸川乱歩邸公開記念サイト
ちょっと一息〜取材のあいまの ひとりごと

江戸川乱歩は、1960--70年代の小学生にも人気だった。筆者も子ども時代、教科書は学校に置きっぱなしにしても、乱歩の本はランドセルに入れて持ち歩き、ワクワクしながら読んでいた(小尾芙佐さんのように歩きながら読んだこともあった)。マーガリンが苦手な私は、給食で残したそれをランドセルに隠して持ち帰り、マーガリンのしみが本についてしまう失敗も。マーガリンはキャラメルのように紙に包んだだけ。ビニールやプラスチック製品が普及し始める高度経済成長期のことだ。小学1年生のときは脱脂粉乳も出て、先生の目を盗んで窓から捨てる子もいた。給食といえばパン。当時は、お米を食べると頭が悪くなるとまことしやかに言われた。隣の席のスズキ君が給食を食べられないと、連帯責任で私も放課後まで残される。嫌いな食べ物は、時間がたてばよけいに喉を通らないだろうに......。

乱歩というと、少年探偵団シリーズの表紙イラストとともに、給食のことが思い出される。

(構成・文 大橋由香子)

次回は小尾芙佐さんに聞く 2回表です。(更新日:4月20日)

大橋由香子(おおはし ゆかこ) プロフィール
フリーライター・編集者。月刊「翻訳の世界」(バベル・プレス)やムック「翻訳事典」(アルク)等で翻訳者へのインタビュー取材を手がけてきた。光文社古典新訳文庫の創設時スタッフでもある。著書『同時通訳者 鳥飼玖美子』『生命科学者 中村桂子』(理論社 )『満心愛の人』(インパクト出版会)ほか。

ジェイン・エア(上)

ジェイン・エア(上)

  • C・ブロンテ/小尾芙佐 訳
  • 定価(本体840円+税)
  • ISBN:75113-5
  • 発売日:2006.11.9
  • 電子書籍あり
高慢と偏見(上)

高慢と偏見(上)

  • オースティン/小尾芙佐 訳
  • 定価(本体920円+税)
  • ISBN:7752403
  • 発売日:2011.11.10
  • 電子書籍あり
幸福な王子/柘榴の家

幸福な王子/柘榴の家

  • ワイルド/小尾芙佐 訳
  • 定価(本体880円+税)
  • ISBN:75347-4
  • 発売日:2017.1.11

《「"不実な美女"たち」vol.1 小尾芙佐さんに聞く一覧》

[2014年8月07日]
連載「"不実な美女"たち──女性翻訳家の人生をたずねて」(vol.1 小尾芙佐さんに聞く 5回裏)
[2014年7月22日]
連載「"不実な美女"たち──女性翻訳家の人生をたずねて」(vol.1 小尾芙佐さんに聞く 5回表)
[2014年7月05日]
連載「"不実な美女"たち──女性翻訳家の人生をたずねて」(vol.1 小尾芙佐さんに聞く 4回裏)
[2014年6月20日]
連載「"不実な美女"たち──女性翻訳家の人生をたずねて」(vol.1 小尾芙佐さんに聞く 4回表)
[2014年6月05日]
連載「"不実な美女"たち──女性翻訳家の人生をたずねて」(vol.1 小尾芙佐さんに聞く 3回裏)
[2014年5月20日]
連載「"不実な美女"たち──女性翻訳家の人生をたずねて」(vol.1 小尾芙佐さんに聞く 3回表)
[2014年5月07日]
連載「"不実な美女"たち──女性翻訳家の人生をたずねて」(vol.1 小尾芙佐さんに聞く 2回裏)
[2014年4月20日]
連載「"不実な美女"たち──女性翻訳家の人生をたずねて」(vol.1 小尾芙佐さんに聞く 2回表)
[2014年4月05日]
連載「"不実な美女"たち──女性翻訳家の人生をたずねて」(vol.1 小尾芙佐さんに聞く 1回裏)
[2014年3月20日]
連載「"不実な美女"たち──女性翻訳家の人生をたずねて」(vol.1 小尾芙佐さんに聞く 1回表)

《「"不実な美女"たち」vol.2 中村妙子さんに聞く》

[2014年11月20日]
連載「"不実な美女"たち──女性翻訳家の人生をたずねて」vol.2 中村妙子さんに聞く(1) 全7回 

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2014年4月 5日 光文社古典新訳文庫編集部 |


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