光文社古典新訳文庫 読書エッセイコンクール2016

小・中学生部門 審査員特別賞

「『クリスマス・キャロル』を読んで」(『クリスマス・キャロル』)

長谷川莉乃(徳島文理中学校2年)

クリスマスや年末年始は、心がウキウキする。プレゼントやご馳走と新しい年を迎える高揚感があいまって、すてきな季節だ。だから、『クリスマス・キャロル』というタイトルは、とても魅力的に思えた。

しかし、主人公のスクルージは、クリスマスのイメージとはまったく合わない人物だ。クリスマスであろうとお構いなしの冷酷な守銭奴といわれるような人だ。貧しい人への寄付さえも断る。せっかく食事をしようと誘ってくれる甥を追い返す。なんて冷たい人だろう。モンスターといってもいいくらいだ。こんな人がどうして生まれてくるのか。とても不思議に思えた。

この作品は、そんなスクルージが、自分自身を見つめ直し、生き方を変えていく物語だ。しかも、見つめ直す過程には驚かされた。仕事仲間だったマーリーの亡霊が現れ、その予言どおりに、三人の精霊によって、過去、現在、未来を旅する。そして、客観的に、自分が自分を見るという体験をするのだ。

そして、私は知った。スクルージは、生まれながらの守銭奴ではなく、物欲や金欲にまみれた最低の人間ではなかったことを。しかも、彼は自分自身を見ながら、そして、自分の身近な人たちを見ながら、苦悩し、涙を流した。会計助手のクラチットの息子タイニー・ティムが重い病気から回復し、長く生きられるよう、心の底から望んだスクルージの姿には、とても感動した。マーリーの亡霊に会う前の彼とは全く違い、善良な部分が目覚めたのだと思う。彼が人間であることを取り戻そうともがいているのだと分かり、ホッとした。そして、精霊との旅を終えた後、慈悲と善良さに満たされた人間としてやり直したスクルージは、「クリスマスの精神を本当に知る人」といわれるほど、大きく変わった。すばらしいことだと思う。

人間は誰でも、良い部分があれば、悪い部分もあると思う。私自身のことを考えても、同じことが当てはまる。善悪両面がシーソーのように揺れ動きながら、バランスをとって日々を過ごしていると思う。スクルージは、そのバランスが崩れてしまった人なのだろう。しかし、若いころ、恋人に拝金主義になってしまったことを非難されていて、バランスを取り戻すチャンスはあったのだ。でも、彼は軌道修正せず、大切な人を失った。自分を見つめることや他人の意見や注意を聞くことがどれほど大切かと思う。

そう考えると、この物語の脇役とスクルージとの関係は意外に素晴らしいと思う。彼の本当の良さを知っているかのように、大らかな人が多い。まず、マーリー。物欲や金欲の中で生きた生前の報いを受けている自分自身の死後の経験から、亡霊として姿を現し、スクルージに同じ過ちを繰り返させないよう警告した。かつての仕事仲間への友情以外の何物でもないだろう。

次に、会計助手のクラチット。安い給料で働き、貧しい生活をしている。クリスマスだから仕事を休むというと悪態をつくスクルージに抗議するほどだから、恨んでいるのだと思った。それなのに、スクルージのおかげでクリスマスを迎えられるといって乾杯しようとする。意外さに驚いた。

そして、甥のフレッド。いくら断られても、伯父をクリスマスの食事に招待するし、本当に伯父を愛し、心配している。伯父のことを「気の毒な人」というくらいだから、根の優しさがうかがえる。

守銭奴といわれるようなスクルージであっても、周囲には彼への憎しみや恨みが渦巻いていたのではないのだ。むしろ、いつも彼への優しさがあったといってよいのだと思う。彼はずっと自分の周りにバリアを作ってしまい、そんなことにも気づかなかったのだろう。当たり前のことだが、人間は一人で生きているのではない。生活の中で、家族をはじめとする大小さまざまな社会につながっている。それらの社会は、人間がつくっている。そうしたつながりが、少しでもお互いのことを思いやれるような関係なら、どれほど幸せなことだろう。しかし、心と心が通い合うのは、実際にはむずかしいことだ。そのため、スクルージと周囲の人たちのように、心のすれ違いが起きてしまうのだろう。当たり前にある「つながり」に、私も気づかなくてはいけないし、それに対する感謝が大切だと思う。さらに、その「つながり」をより太いものにするために、勇気を出して心を開くことも必要だと考える。

ちょうど今、オリンピックでの選手の活躍が続いている。それは選手だけのものではなく、指導者や仲間、家族、ファンといった大勢の「つながり」があってのものだと思う。「つながり」を自覚するために、精霊に導かれたスクルージのように、私も自分を見つめられるよう努めたい。そして、「つながり」を自分でつくっていける人に成長したい。

クリスマス・キャロル

クリスマス・キャロル

  • ディケンズ/池 央耿 訳
  • 定価(本体419円+税)
  • 発売日:2006.11.9