第1回 
古典くん、アフリカの「絆くん」のために奔走する

(『崩れゆく絆』の読者を求めて)

December 30, 2015

このページは、婚活ならぬ「読活=ドッカツ!」をキーワードに、 その本が、「出会うべき読者」に会いに行くというレポートを載せます。 レポートを書くのは、ボク、「古典くん」。

「ドッカツ!」とは、本の方が、自分にピッタリの読者を探し出し会いにいくというアクティヴな行動のこと。

古典新訳文庫にラインナップされている本たちは、日々新たな読者を求めて営業活動をガンバッテいます。 しかし、その中には、より積極的に活動しなければいけない、これはドッカツ!せねばアカンゾと思う本たちもいます。

たとえば、それは日本ではあまり知られていない国の小説、 ガチガチに難しい哲学書、それとちょっとクセのある本。

今回、ドッカツ!してもらおうと思っているのは、アフリカ文学の本です! 「外国文学パーティー」という会があったとしたら、壁の花になりやすいタイプ。 アフリカ系の移民が多いフランスやイギリスでは違うでしょうけど、 この日本では、やはりアフリカ文学はマイナーです。

書いたのは、ナイジェリア出身のイボ人の作家アチェベ。 本の名前は『崩れゆく絆』(訳・ 粟飯原文子)です。 この「絆くん」、けっこう個性的な姿をしています。 顔は、ヤム芋柄のアフリカ布地の顔に、現代的な青年の体。 なんで顔はヤム芋柄? これについては コラムで説明しますね。

それでそれで、「絆くん」よく見ると、けっこう表情豊かな奴なんですよ。話かけるとけっこうミリョク的な対応もしてくれます。彼が着ている現代的な服装も、なかなか似合っているじゃないですか。(新訳は、現代的な服装への着替えであると「古典くん」は思っています)

「絆くん」が着ている洋服である、文庫カバーの裏表紙には、こんな言葉が。

「古くからの呪術や慣習が根づく大地で、黙々と畑を耕し、獰猛に戦い、一代で名声と財産を築いた男オコンクウォ。しかし彼の誇りと、村の人々の生活を蝕み始めたのは、凶作でも戦争でもなく、新しい宗教の形で忍び寄る欧州の植民地支配だった。『アフリカ文学の父』の最高傑作」

……なかなか面白そうな奴だと思えませんか? なに? やっぱり手に取るのは、ムズカシイ? この「絆くん」キャラ、現代日本の読者には、やっぱり くまモンやひこにゃんと違って、馴染めないキャラなのかしら…… だからドッカツ!です。

マイナー文学勃興!

この本『崩れゆく絆』の「出会うべき読者」を積極的に探そう!

編集部ワタシ「古典くん」は考えたのでした。

そして見つけました! この本の世界を充分に理解し楽しんでくれる「スーパー読者」を。 アフリカ系ファッションのお店「梅田洋品店」のオーナー梅田昌恵さんです。

梅田さんは、バイヤー兼デザイナー。 アフリカン布地の最大の魅力は、柄が面白いところ。 その布地を現地から買ってきて、梅田さんが日本女性に合った形に仕上げるのです。

「アフリカならではの柄の面白さと動きやすさ、それに美しいデザインが、うちの店の特徴です」

梅田さんの言葉です。『崩れゆく絆』のスーパー読者として期待できそうです。編集部のワタシ「古典くん」、梅田さんに会いに行ってきま〜す!


お店は、南青山、根津美術館の向かい側のビルに。中に入ると、そこはアフリカ! 派手な色彩のワンピースがたくさんぶら下がり、スカート、バッグにヘアアクセサリー。その楽しげな小型アフリカン市場の奥に、梅田さんがおられました。

ニッコリ顔。

ゲンキそう! ミリョク的な女性です。

……こんにちわ! ボク、「古典くん」といいます。 今回は『崩れゆく絆』くんのドッカツ!できました。 実は、梅田さんのお噂を聞いて、この本の「スーパー読者』は梅田さんしかいないと思い込んでしまいました!強引ではありますが、事前に本を贈ってあります。オモシロカッタですよね?

梅田 オモシロカッタも何も、私は10年ぶりの再読です。昔、「アフリカ文学だったら、これ!」という形で、誰かに推薦され、前の訳で読んでいるのです。 (先行訳に、古川博己訳<門土社、1977年>があります)
 今回、改めて「新訳」で読むと、確かにオモシロカッタですね。 登場人物たちが占いをしたり、守護霊がいたりするスピリチュアルな感じは、普通に信心深い日本人の暮らしに似ています。仮面を被った神様はナマハゲみたいだし(笑)、物語の中に出てくる言葉「夜に口笛を吹くと悪霊がやってくる」なんて、昔どこかで聞いた言葉みたいと思いました!

マンデラ柄の服と梅田昌恵さん。

……いきなり、深いところで共感していますね。

梅田 つまり、キリスト教もイスラム教も深く浸透しなかった国に住む私たちには、この小説が描くキリスト教による村の文化の崩壊、その崩れゆく前のイボ人たちの村の文化と深く共感できるということです。 そう感じると同時に、こういう私たち日本人は、アフリカと欧米の間で、中立な立場として、できることがいっぱいあるんだろなと考えてしまいました。!

……小説を読んでそんなことまで考えたんですね。 やっぱり梅田さんは、出会うべき読者でした!

梅田 (笑)! 10年前に読んだ時はマッチョな小説だと思っていたんです。

……主人公の男性オコンクウォは、レスリングの最高の勇者ですものね。

梅田 だけど、今回読んでみると、村にはいろんな人がいることに気づきました。お友達のオビエリカはぜんぜんマッチョじゃないし、様々なタイプの人がいる。そして村自体もそれぞれ違いがあるんです。
 私の好きな作家にチママンダ・ンゴズィ・アディーチェという人がいます。アチェベと同じイボ人の女性の小説家なんです。彼女は「シングル・ストーリーはよくない」とたびたびいっています。
 シングル・ストーリーはどういうことかというと、アフリカ人はいつも裸で歩いているとか、日本人はチョンマゲして暮らしている(笑)みたいな一方的な見方ですね。 そういうシングル・ストーリーになることをアチェベは、上手に避けているんですね。だからいろんな個性をもつ人たちを書いているし、村を壊していく白人側も色々なタイプに書きわけているのです。 宣教師も強硬派の白人だけでなく穏健な人も登場させている。そこがとってもイイ!

店内で『崩れゆく絆』を読む。

……単なる植民地主義批判の批判ではない、とっても豊かな物語として読めるのは、そういう多様な視点があるからなんでしょうね。なんか『崩れゆく絆』くんが、泣いて歓びそうな感想です!

梅田 だけど不満もあるの! 私はお洋服が好きだから、小説を読む時も着るもののことが気になるんだけど、あまりアチェベは書いていないんです。
 175ページのオコンクウォと奥さんになる女性エウウェフィのベッドシーンで、「彼女がまとっていた布の合わせ目をさがそうと、腰のあたりをまさぐったのだった」くらいかな……そう「腰のビーズ」を唄う箇所もありましたね。たとえば、西アフリカのある地域の女性たちって、腰にビーズを3本くらい巻くんです。今だったら腰浅のジーンズにそのビーズがちょろちょろと見えて、それがすごくカワイイ! 女の子の衣装とか、もっと書いて欲しかったです。だけど、こうも考えました。着るものの描写が少ないのは、みんなが動物の皮を着ていたり、上半身裸だったりするから。それを書くと、「西欧的な眼差し」になっちゃう! それに作家は気をつけていて、わざと書かなかったかもしれないわね。

……前の訳と比較して、この新訳はどう思いましたか?

梅田 先行訳の主人公の名前は「オコンクオ」だったんです、それを今回「オクンクウォ」にしているんですね。現地の言葉の音に今度の方が近いんでしょうね。それからいっぱいの注釈を添えたりして、アフリカの知識が豊かな訳者、粟飯原文子さんが、正確を期すように心がけていることがすごくよくわかりました。
 それからなんといっても、登場人物が記されたシオリが便利! 私は慣れているからいいけど、アフリカ文学をあまり読んでいない人には、アフリカ人の名はとまどうし、よく覚えられないと思うの。だけど、このシオリがあれば、安心して読書できます!

……その評価うれしいです。編集部を代表して、ワタシ古典くん、泣きそうです。さて、『崩れゆく絆』のドッカツ!のお相手である、梅田さんのことが知りたいです。ドキドキ! まずは梅田洋品店のことを教えて下さい。

アフリカンファッションの魅力とは?

梅田 梅田洋品店は、ワタシ梅田昌恵が運営する、アフリカものを扱う、小さなアトリエショップです。ワタシ自身がバイヤー&デザイナーとして、毎年アフリカの都市へ布を買い付けに行き、このアトリエでオリジナルのワンピースやバッグに仕立てています。アフリカの雑貨、アクセサリー、美術品、フェアトレード製品も扱っています。ウチのお店のテーマは「アフリカワイイ」。アフリカの布を使ったカワイイお洋服です。こうした商品の一部は、オンラインショップでも購入いただけます。

……お店を始めたきっかけは?

梅田 私はお洋服が好きで、アパレルの仕事をしていて、それに経理の経験もあったんです。それであるボランティア団体が、その両方の仕事ができる人を募集していて、それで十数年前ジンバブエに行ったのです。それまでジンバブエなんて興味はなく、そういえばボブ・マーリーが「ジンバブエ」というタイトルの唄を唄っているな〜とくらいしか知らなかったんです。あちらでは刺繍団体のマネジメントをしていました。刺繍の商品をつくっている現地の女性たちがいて、その商品管理と販売促進の仕事をやっていたんです。その時に、アフリカの布の素晴らしさを知ったんですね。その布を日本に紹介したいなと思って、梅田洋品店を開くことを考えたんです。 2004年から初めて、最初の頃は東京の中央線、西荻窪でやっていました。 ウチは、webでも展開してので、それを見て全国のお客さんがお店にいらっしゃったんですね。それでもっと来やすい場所ということで、この南青山に移転したのです。

初めてのアフリカ、ジンバブエにいた頃の梅田さん。
ケニアのバオバブの木と。

……アフリカン・ファッションの魅力とは?

梅田 柄が面白いところが魅力です。アイロンの絵が柄になったものとか、エッグスタンド柄とか、とっても楽しいのが多いんです。それから東アフリカ(ケニア、タンザニア)には「カンガ」という布地があります。スワヒリ語の文が記されている布です。 たとえば「水の流れは止められるけれど、神からのものは止められない」なんていうメッセージの入った服を着て歩くんです。それから「どこの肉屋をまわっても同じ味がするだけ」という言葉。これは浮気をする男へのメッセージですね(笑)。こういうのを着て街を歩いて楽しむんです(笑)。というように、柄が面白い布が最大の魅力です。

エッグスタンド柄の布地を使ったワンピース(左)。バック柄のワンピース(中央)。
西アフリカの布でつくったティアードスカート(右)

……お客さんはやはりアフリカが好きな方ですか?

梅田 アフリカ好きというより、こういう美しいファッションが好きな人が多いですね。お客様の年齢はまちまちです。体型もウチはセミオーダーもしていますから、いろんな方がいらっしゃいます。

カンガのバルーンスカート。
スワヒリ語のメッセージは「ムスリムの祝日を祝いましょう」(左)
「私の成功をねたまないで」(右)

……買い付けの様子を教えて下さい。

梅田 毎年1月に一月店を閉めてアフリカに行きます。ケニア、ジンバブエ、カメルーン、ガーナなど毎年違った国に行っています。2015年はエチオピアに行ってきました! あの国は美男美女が多い。珈琲が美味しい。そして標高が高いですから息切れしました(笑)。 エチオピアでもそうでしたが、いつも買い付けは、市場や工房に行ってほとんど英語を使っての直接交渉です。
 ケニアの都市モンバサ、手榴弾とかが爆発する事件があったりする危険な場所だからといわれていましたが、そこでしか手に入らない布カンガがあったので、出かけていったこともあります。 どんな日常かというとホテルで朝7時に起きて8時に出発して、買い付けの交渉、夕方4時に帰ってきて、7時に寝るという毎日ですね。やはり直接交渉は疲れるんですよ(笑)。だから早く寝ちゃうんですね。

ここで、ちょっと休憩タイム。「古典くんのドッカツ漫画」へ!

なぜ、「絆くん」の顔は、ヤム芋柄なのか?

僕は、「古典くん」。 なぜ、「絆くん」の顔が、ヤム芋柄なのか。このことについて書きます。 マンガの「絆くん」の姿を見て、ご当地の特色をわかりやすく示す「ゆるキャラ」と違って「文学キャラ」は、なんかワカリニクイぞ! とお思いでしょう……まずヤム芋について説明します。 つづき>>

ドッカツ!アドバイスいただきました!

……梅田さんのことがわかってきたところで、ちょっとアドバイスをいただきたいのです。今回、ボク(古典くん)は、「絆くん」のために ドッカツ!を行い、素敵な読者、梅田昌恵さんに出会えて、すごくウレシク思っています。また「絆くん」も、これを機会に素敵な読者の方々に出会えることを期待していると思います。なぜなら、梅田さんって、アフリカ好きの方たちの色々なネットワークを知ってそうじゃないですか。それでですが、彼『崩れゆく絆』がもっと読者に出会えるためには、どうすればいいのでしょう! アドバイスいただけないでしょうか。

梅田 アフリカ文学は情報が少ないから、情報発信が必要じゃないかな。私は「お針子だより」というブログをもっていて、そこでアフリカ文学の本を紹介していますよ。ここで本を紹介すると、お客さんが「買ったわよ〜」なんていってくれる。アフリカ文学なんかぜんぜん知らなかった人が、ウチを通してアフリカ文学にアクセスしてくれるんです。古典くんも、もっと情報発信すべきだと思います!

……ハイ!

梅田 でも、ただ情報発信してもダメだと思うのです。なんかひとつオモシロミが欲しいですね。

……ハァ……

梅田 私はTwitterなどでアフリカの諺を発信しているんですよ。 たとえば「あなたを苦しめる煙は、あなたがこしらえた焚き火によるものだ」ケニアの諺ですね。 「長い首と鋭い目を持つダチョウでさえ見えないものとは? 明日起こること」これはカヌリ人(西アフリカ)の言葉。私はこういうアフリカの諺や格言が大好きなんです。買い付けにいった時に、現地の人にこういう言葉を教えてもらい、メモをしてTwitterで流すんですよ。

……こういうツイートはあまりないですね〜梅田洋品店独自の世界ですね。

梅田 あなただってツイートできますよ。『崩れゆく絆』の中にも諺はかなり出てくるから。数えてみると、独特な比喩表現も会わせると15もありました、この小説には!アチェベは小説の中で「イボの人々のあいだでは話術がたいそう重んじられる。ことわざは、言葉と一緒に食べる椰子油である」と書いているけれど、作家は実践しているわけですね。

……梅田さんは、この小説のいろいろな側面を楽しんでいるのですね。

梅田 ドッカツ!のことですけど、アフリカ関係のイベントに参加して、本を手売りするのもいいかもしれない。ネットで調べてみるとわかるんですが、アフリカ関連のいろんな団体が集まるお祭りって案外あるんですよ、そこに参加したらどうでしょう。  それと吉祥寺に「アフリカ大陸」というアフリカ料理のレストランがあるんですけど、あそこのママは、西アフリカ、ナイジェリアのことも詳しいから、この『崩れゆく絆』にピッタリ! あのお店でや訳者の粟飯原さんを中心にしたパーティーをしたらいいんじゃないかしら。アイデアはいろいろと出てきますね。ほら、アフリカ文学を知ってもらうために、もっともっと動かなくちゃ!

……了解しました! ドッカツ! 頑張ります!

さてさて、梅田洋品店の梅田昌恵さんから、ドッカツ!へのアドバイスをいただいた ワタシ「古典くん」は、ドッカツ!を実践するために「絆くん」に会ってこようと思っています。ありっ! あいつカフェなんかで暇をつぶしているよ。なんか窓際の席で、本なんか読んでいる……。しかし、個性的なキャラしてんなあ、『崩れゆく絆』くん。この魅力をなんとか伝えたい。そして、素敵な読者に出会わせたい!!

(漫画・吉井千裕 構成・多羅尾番外)

〈情報コーナー〉

梅田洋品店

〒107-0062 東京都港区南青山6-1-6 パレス青山603B号室
TEL:03-6419-7668
ウェブサイト:http://umeday.com/
★営業日・時間の詳細は、webで確認して下さい。

この本に興味をもった方は、次のステップへ。『崩れゆく絆』を翻訳した 粟飯原文子さんのインタビュー記事です。