2013.02.04

2月刊『緋文字』の謎

book163_obi_b.jpgこんにちは。古典新訳文庫の傭兵編集者Oです。 古典新訳文庫のウェブサイトがリニューアルになったので、今後ぼちぼちと編集部内でのいろんなことや、作品にまつわる裏話などを書いていこうと思っています。どうぞよろしくお願いします。

さて今日は2月の新刊であるホーソーン『緋文字』の紹介です。

個人的には、英文科の学生だった15年くらい前に授業で苦労して精読した覚えのある作品なので、ちょっと思い入れがあります(まさかその本をつくる手伝いをするとは!) これ、英語がなかなか難しい作品なので(おまけに先生も外国の人だったので)、当時はこっそり日本語訳を文庫を読んで予習・復習していたのですが、それでも結構難解な印象がありました。

まず、『緋文字』の超基本的なところからアレしますと、この古典新訳文庫版では「緋文字」は「ひもんじ」と読みます。「緋」は赤い色ですね。じゃあ赤い文字ってのは何かというと、この作品ではアルファベットの大文字の「A」のことであり、本書の主人公である女性ヘスター・プリンの衣服の胸のところに、この赤い「A」がつけられているのです。それだけでも、なんだろう?って気がしますね。

物語の舞台は17世紀のニューイングランド植民地。ここはイギリス本国よりも道徳にうるさいピューリタン社会、ヘスターさんは「姦通」の罪で告発され(いわゆる「不倫」です)、その罰として今後胸に罪のしるしとして「A」の文字を付けて生きなくてはいけなくなったわけです。ちょっと変わった「罪ほろぼし」ではありますが、まあ丸坊主にして反省する習慣のある国もありますので、いろいろあるんでしょう。とにかく、物語はそこから始まります。

ヘスターの不倫相手はディムズデールという社会的影響力のある(しかし病弱な)牧師なのですが、ヘスターは不倫相手の名前を頑として明らかにしようとしません! そう、これがバレると、牧師にとっては身を滅ぼすスキャンダルになってしまうのです。しかしヘスターは携帯で撮ったニャンニャン写真を週刊誌に持ち込んだりはせず、ヘスターはディムズデールとの間の子パールを連れて、二人きりで生きていこうと決意しています(実は不倫といっても故意なわけではなくて、不幸ないきさつがあるんですけどね)。

いっぽう妻を寝取られた夫ディムズデールは黙っていません。医者に扮して牧師に近づき復讐の機会をうかがっています(で、なぜか同居までしてます!)。この粘着ぶりといったら、むしろヘスターよりディムズデールのことが好きなんじゃないかと思うほど。「愛憎」という言葉を引き合いに出しつつ「愛が憎しみに変わる」という物言いがされることがよくありますが、逆に憎しみが愛のようになってしまうこともあるのかもしれません。

あんまり詳しく書くと興を削いでしまいますが、このあたりの登場人物たちの心の動きの描き方がなんとも見事であり、この作品が普遍性を獲得しているゆえんのように思います。で、結局読み終えると、罪の印のはずの「A」の文字が燦然と輝いて見えるから不思議。

この「A」は結局なんなのかという議論は昔から結構あるのですが、まあ、その話は別な機会にでも。

また、訳者の小川高義さんによれば、これで日本では16人目の『緋文字』の翻訳者となるはずだとのこと。編集部としては今回の訳は、ホーソーンの原文の格調高さと、現代的な読みやすさを兼ね備えた素晴らしい訳だと思いますし、自信をもってお勧めするわけですが、日本でこれだけ長い間いろんな人に訳されてきた作品もまれであり、それはひとえに本作に日本人が魅了されてきたという証拠なのだと思います。ぜひ、この16番目の『緋文字』を古典新訳文庫で読んでみてください!

2月13日発売です!!!

(2月の新刊は『緋文字』(ホーソーン/小川高義・訳)と『死の家の記録』(ドストエフスキー/望月哲男・訳)です。)