2014.12.21

「光文社古典新訳文庫 読書エッセイコンクール2014」の入賞者決定!

「光文社古典新訳文庫 読書エッセイコンクール2014」の入賞者が決定しました。感想文コンクールから数えて7回目となった今回も、多数の作品をご応募いただきました。ありがとうございました!

【小・中学生部門】

  • 〈最優秀賞〉
    ものの善悪とは/対象図書:『ジーキル博士とハイド氏』
    中原立佳(大妻中学校1年)
    〈優秀賞〉
    太古の血/対象図書:『野性の呼び声』
    井上芽依(横浜共立学園中学校2年)
    〈審査員特別賞〉
    自分で決めたレール/対象図書:『車輪の下で』
    窪 舞(香川県大手前高松中学校1年)
    〈審査員奨励賞〉
    脳にトゲ刺す/対象図書:『読書について』
    鳥山 遍(学習院中等科3年)

【高校生部門】

  • 〈最優秀賞〉
    「アカデミーで報告する」を読んで>/対象図書:『変身/掟の前で 他2編
    今泉伎琳(東京大学教育学部附属中等教育学校4年)
    〈優秀賞〉
    皿を探す旅>/対象図書:『月と六ペンス』
    谷 奈乃花 (東京学芸大学附属国際中等教育学校4年)
    〈審査員特別賞〉
    「人生」という名の「夜間飛行」/対象図書:『夜間飛行』
    張 麗娜(東京大学教育学部附属中等教育学校4年)
    〈審査員奨励賞〉
    宣戦布告をしたからには、本丸まで行かなくてはならない/対象図書:『ドリアン・グレイの肖像』
    高栁 祿(東京大学教育学部附属中等教育学校4年)

【大学生・一般部門】

  • 〈最優秀賞〉
    大嫌いなあなたの、愛おしい世界/対象図書:『アドルフ』
    下地聡子(琉球大学 法務研究科 法務専攻)
    〈優秀賞〉
    徒然なるままに、孤独のことを/対象図書:『マルテの手記』
    野村慶子
    〈審査員特別賞〉
    The Thin Line Between Now And The Future/対象図書:『すばらしい新世界』
    宮城一彰
    〈審査員奨励賞〉
    私の読書について/対象図書:『読書について』
    高橋 充

【学校協力賞/中学の部】

  • 大妻中学校(東京)/ 湘南白百合学園中学校(神奈川)/ 東京大学教育学部附属中等教育学校(東京)/ 啓明学院中学校(兵庫県)/ 横浜共立学園中学校(神奈川県)

【学校協力賞/高校の部】

  • 城北高等学校(東京)/ 東京学芸大学附属国際中等教育学校(東京)/ 東京大学教育学部附属中等教育学校(東京)/ 早稲田大学高等学院(東京)/ 啓明学院高等学校(兵庫県)
  • 《審査員》
  • (公財)文字・活字文化推進機構調査研究委員、日本教育大学院大学客員教授 北川達夫
    東京大学教授 沼野充義
    一般財団法人 出版文化産業振興財団理事長 肥田美代子
    一般財団法人 光文文化財団常務理事 古谷俊勝
    光文社出版局長 駒井稔

のびのびと書かれたエッセイに魅了されました。 /光文社出版局長 駒井 稔

「読書エッセイコンクール」と名称を変えて二回目の選考になりました。エッセイというニュアンスを理解いただき、のびのびと自分の主張を展開した、非常に水準の高い作品が多数寄せられたことに深く感謝をいたします。

小・中学生部門の最優秀賞は中原立佳さんの『ジーキル博士とハイド氏』。善と悪の複雑な関係に言及しつつ、「スター・ウォーズ」のダース・ベーダ―とジーキル博士の共通点を指摘した点が大変ユニークであると評価されました。優秀賞の井上芽依さんの『野性の呼び声』は主人公である犬のバックが、文字通り野獣の血に目覚める瞬間に着目した部分が特に印象的でした。特別賞の窪舞さんは『車輪の下で』を取り上げ、自分と主人公のハンスを比較し、自分の意志を持たないことの悲劇について見事な分析をしています。審査員奨励賞の『読書について』を書いた鳥山遍さんは、ショーペンハウアーに対する共感と反発をコミカルなタッチで表現しました。作品との絶妙の距離感は読み応えがありました。

高校生部門の最優秀賞は今泉伎琳さんの『変身/掟の前で』。この本に収録された「アカデミーで報告する」という、カフカのきわめて抽象度の高い短編を見事に読みこなしたことが、審査員一同の高い評価を得ました。優秀賞の谷奈乃花さんは『月と六ペンス』で、主人公のストリックランドを料理に見立て、彼を取り巻く環境を皿と見る、優れたレトリックを駆使して作品の本質を表現してくれました。特別賞の張麗娜さんは『夜間飛行』を、「面白い」という言葉では表現できない小説との、初めての出会いだという感動的な言葉で評しました。審査員奨励賞の高栁祿さんの『ドリアン・グレイの肖像』。坂口安吾の『堕落論』や萩尾望都の『ポーの一族』を援用しながら、この作品自体を、まだ最終的には理解できないことの悔しさを吐露した内容で好感が持てました。まさに読書エッセイコンクールならではの作品でした。

大学生・一般部門の最優秀賞は下地聡子さんの『アドルフ』。このフランス心理小説の傑作の真髄に迫った書きぶりが高く評価されました。男女の恋愛における不可解ともいえる心理を、細かいところまで、よく読みとった優れたエッセイになっています。優秀賞は『マルテの手記』を取り上げた野村慶子さん。孤独であることの意味を徹底的に考察した内容は、審査員一同の共感を呼びました。難解をもって鳴る作品を、深い理解で解析することに成功しています。特別賞は宮城一彰さんの『すばらしい新世界』。池澤夏樹の同名の作品と対比させつつ、この作品の持つ不気味なほどのリアリティを見事に描出しました。優れて時事性のあるエッセイとなっています。審査員奨励賞の高橋充さんは『読書について』で、退職後の日々の読書を語りながら、ショーペンハウアーとの架空対話とでもいうべき内容が心に残りました。慈味あふれる文体も高く評価されました。

今年の受賞作すべてが、個性的で大変すぐれたものでした。審査員も選考にあたっては、難しい審査を余儀なくされましたが、おかげさまで素晴らしいコンクールになりました。ご応募いただいすべての方々、そしてご指導いただいた先生方にこの場を借りて厚く御礼申し上げます。本当にありがとうございました。