「光文社古典新訳文庫 読書エッセイコンクール2014」の入賞者が決定しました。感想文コンクールから数えて7回目となった今回も、多数の作品をご応募いただきました。ありがとうございました!
「読書エッセイコンクール」と名称を変えて二回目の選考になりました。エッセイというニュアンスを理解いただき、のびのびと自分の主張を展開した、非常に水準の高い作品が多数寄せられたことに深く感謝をいたします。
小・中学生部門の最優秀賞は中原立佳さんの『ジーキル博士とハイド氏』。善と悪の複雑な関係に言及しつつ、「スター・ウォーズ」のダース・ベーダ―とジーキル博士の共通点を指摘した点が大変ユニークであると評価されました。優秀賞の井上芽依さんの『野性の呼び声』は主人公である犬のバックが、文字通り野獣の血に目覚める瞬間に着目した部分が特に印象的でした。特別賞の窪舞さんは『車輪の下で』を取り上げ、自分と主人公のハンスを比較し、自分の意志を持たないことの悲劇について見事な分析をしています。審査員奨励賞の『読書について』を書いた鳥山遍さんは、ショーペンハウアーに対する共感と反発をコミカルなタッチで表現しました。作品との絶妙の距離感は読み応えがありました。
高校生部門の最優秀賞は今泉伎琳さんの『変身/掟の前で』。この本に収録された「アカデミーで報告する」という、カフカのきわめて抽象度の高い短編を見事に読みこなしたことが、審査員一同の高い評価を得ました。優秀賞の谷奈乃花さんは『月と六ペンス』で、主人公のストリックランドを料理に見立て、彼を取り巻く環境を皿と見る、優れたレトリックを駆使して作品の本質を表現してくれました。特別賞の張麗娜さんは『夜間飛行』を、「面白い」という言葉では表現できない小説との、初めての出会いだという感動的な言葉で評しました。審査員奨励賞の高栁祿さんの『ドリアン・グレイの肖像』。坂口安吾の『堕落論』や萩尾望都の『ポーの一族』を援用しながら、この作品自体を、まだ最終的には理解できないことの悔しさを吐露した内容で好感が持てました。まさに読書エッセイコンクールならではの作品でした。
大学生・一般部門の最優秀賞は下地聡子さんの『アドルフ』。このフランス心理小説の傑作の真髄に迫った書きぶりが高く評価されました。男女の恋愛における不可解ともいえる心理を、細かいところまで、よく読みとった優れたエッセイになっています。優秀賞は『マルテの手記』を取り上げた野村慶子さん。孤独であることの意味を徹底的に考察した内容は、審査員一同の共感を呼びました。難解をもって鳴る作品を、深い理解で解析することに成功しています。特別賞は宮城一彰さんの『すばらしい新世界』。池澤夏樹の同名の作品と対比させつつ、この作品の持つ不気味なほどのリアリティを見事に描出しました。優れて時事性のあるエッセイとなっています。審査員奨励賞の高橋充さんは『読書について』で、退職後の日々の読書を語りながら、ショーペンハウアーとの架空対話とでもいうべき内容が心に残りました。慈味あふれる文体も高く評価されました。
今年の受賞作すべてが、個性的で大変すぐれたものでした。審査員も選考にあたっては、難しい審査を余儀なくされましたが、おかげさまで素晴らしいコンクールになりました。ご応募いただいすべての方々、そしてご指導いただいた先生方にこの場を借りて厚く御礼申し上げます。本当にありがとうございました。