今年5月に刊行された『千霊一霊物語』は、フランスの作家アレクサンドル・デュマ(1802-1870)による怪奇物語集で、日本で初めての全訳となりました。
『千霊一霊物語』というタイトルは『千夜一夜物語(アラビアン・ナイト)』を下敷きとしたもの。凄惨な殺人事件をめぐる大きな話の筋にそって、話者を次々と変えながら、いくつものストーリーが語られていきます。披露される怪奇譚の舞台となっている時代も場所もさまざまで、時にエキゾチック、時に時代小説風ですが、冒頭からデュマ本人が登場するなど一見本当にあった事件かと思わせる仕掛けもあり、読者を惹き付けて離しません。
すでに『モンテ・クリスト伯(巌窟王)』や『三銃士』などのベストセラーを生み出していたデュマは、どのような意図・意趣でこの小説を書いたのでしょうか。
また、デュマは時の流行作家として莫大な富を手にしながら、美食と美女に金を注ぎ込み続け、劇場や大豪邸も建設するなど、その豪快な人柄でも知られています。人間としての彼の魅力は、作品にどのように現れているのでしょうか。今回新訳を手がけられた前山悠さんをお招きして、たっぷり語っていただきます。
(聞き手:光文社古典新訳文庫・創刊編集長 駒井稔)