ガリレオは本当に屈したのか?

ガリレオの生涯

ガリレオの生涯

ブレヒト    
谷川道子  訳   

3.11以降、もっともアクチュアルに読まれるべき問題作!

作品

「いまこそ科学の光を監視して悪用せずに、活用すること。でないとそれがいつか火の玉になってわれわれみんなを焼き尽くす、そう、そんなことにならぬよう」(第15景より) 自らの生き方をも問うたブレヒトの遺作を渾身の新訳で。


内容

地動説をめぐり教会と対立し、自説を撤回したガリレオだったが、幽閉生活で目が見えなくなっていくなか、じつは秘かに「新科学対話」を口述筆記させ、秘匿していたのだった......。ナチス支配下から原爆投下、そして冷戦までの状況下で書き続けられた"自伝的戯曲"であり、ブレヒト最後の傑作。


訳者・谷川道子さんからのメッセージ

「ブレヒトの"遺言"を、ぜひ若い世代にも読んでほしいと願っています」

『ガリレオの生涯』はいま、なぜもっともアクチュアルな問題作なのだろうか?
3.11のフクシマ原発事故とどう関係するのか?
二つの世界大戦を体験した戦争の世紀=20世紀を生きたブレヒトは、どういう思いと状況で戯曲『ガリレオの生涯』を書き、なぜ『アインシュタインの生涯』を遺稿断片として我々に遺したのか? そしてそれはどう〈我々地球人の使命〉あるいは〈近代以降の問題=ポストモダン〉と関わっているのだろうか?
――そんな思いを込めて新訳し、解説も書きました。
ブレヒトの遺言でもあるこの戯曲を、若い世代にもぜひ読んでほしいと願っています。

「君たちは何のために研究するんだい? 私は思うんだ、科学の唯一の目的は、人間の生存の辛さを軽くすることにある、と。科学者が利己的な権力者に脅かされて、知識のために知識を積み重ねるのに満足するようになったら、科学は不完全になり、君たちの作る機械だって、新たな災厄にしかならないかもいれない。時を重ねれば、発見すべきものはすべて発見されるだろうが、その進歩は、人類からどんどん遠ざかっていくだけだろう。君たちと彼らの溝はどんどん大きくなって、新しい成果に対して君たちがあげる歓呼の叫びが、全世界のあげる恐怖の叫びになってしまう、という日もいつか来るかもしれないのだよ。」(第14景より)

「新・古典座」通い -- vol.16 2013年1月
[書評]
  • 読売新聞 2013年3月7日
  • 訳者による解説「ガリレオ/ブレヒト/アインシュタイン」は、本書が現在の日本に必要な理由を静かに訴える。(評者:片岡直子さん/詩人)
ベルトルト・ブレヒト    Bertolt Brecht
[ 1898 - 1956 ]    ドイツの劇作家、詩人、演出家。南ドイツ生まれ。1917年ミュンヘン大学哲学部に入学したのち、医学部に転部。1918年に第一次世界大戦に召集され衛生兵として勤務。1922年ミュンヘンで初演の『夜打つ太鼓』が成功をおさめ、一躍脚光を浴びる。ナチスの弾圧を逃れ、1933年から北欧、アメリカと亡命生活を続ける。戦後は東ドイツに戻り、劇団を設立。自らの演劇活動を再開させたが1956年心筋梗塞のため死去。「叙事的演劇」「異化効果」「教育劇」をはじめ、さまざまな新しい演劇の理論を生みだし実践することで、戦後の演劇界に大きな影響を与えた。代表作に『三文オペラ』『母アンナの子連れ従軍記』『ガリレイの生涯』『セチュアンの善人』など。
[訳者] 谷川道子    Tanigawa Michiko
東京外国語大学名誉教授。ブレヒトやハイナー・ミュラー、ピナ・バウシュを中心としたドイツ現代演劇が専門。著書に『娼婦と聖母を越えて----ブレヒトと女たちの共生』、『演劇の未来形』など。訳書に『母アンナの子連れ従軍記』『ガリレオの生涯』『三文オペラ』(ブレヒト)、『汝、気にすることなかれ』(イェリネク)、『指令』(ハイナー・ミュラー)、『ピナ・バウシュ----怖がらずに踊ってごらん』(シュミット)、『ブレヒト作業日誌』(全2巻、共訳)他多数。