2013.06.27

『すばらしい新世界』のすばらしい名言・名場面

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担当編集者が激推しする『すばらしい新世界』のすばらしい世界
『すばらしい新世界』の登場人物 相関図

「文明(シヴィライゼイション)とは消毒(ステリライゼイション)である」

「でもわたしはベータで、受精室で働いていたんだから、繕い物なんて教わらなかったわ。わたしのやることじゃなかったから。だいいち服を繕うのは正しいことじゃないと教わっていたものね。穴があいたら捨てて、新しいのを買いなさいって。"縫い針一本恥のもと"。そうでしょ? 繕い物は反社会的よ。でもここでは全然違うの。まるで頭のおかしな人たち暮らしているようなものよ。」

「"鬱かなと思ったら早めのソーマ"よ」とレーニナは睡眠教育の黄金の知恵を引っ張りだした。

バーナードは差し出されたグラスを苛立たしげに押し戻した。

「ねえ、怒らないで。"10グラムは10人分の鬱を撃つ"でしょ」

「ああ、フォード様、ちょっと黙っててくれ!」バーナードは声をあげた。

レーニナは肩をすくめた。

"うらむより1グラム"」威厳をこめてそう言うと、自分でラズベリー・サンデーを食べた。」

「知的に優れた者にはそれだけ重い責任がある。有能な者ほど他人を誤った道に導く力も大きいからな。大勢が堕落させられるより、一人が苦しめられるほうがいい。この問題を感情抜きに考えてみたまえ、フォスター君。異端者の行動ほど忌まわしい罪はないぞ。殺人は個々の人間を殺すだけだ。個々の人間などは」宙を掃くような手ぶりで顕微鏡と試験管と孵化器の列を示した。「好きな数だけ簡単につくり出せる。しかし異端者の行動は個人の命以上のものを脅かす。社会自体を攻撃する。そう、社会自体をだ」

ジップ! まるみを帯びたシェルピンクの下着が、林檎をすぱっと切ったようにふたつに分かれた。両手でくいくいとおろし、まずは右足を持ちあげ、次いで左足を持ちあげる。ジッピキャミニックスは空気を抜かれたようにぺしゃんこになって床の上に生気なく落ちた。

靴とハイソックスと小粋に傾けた白いベレー帽だけの姿で、レーニナはジョンのほうへ進んできた。「大好き、あなたが大好き! あなたもわたしが好きだったら、もっと早く言ってくれればよかったのに!」両腕を差しのべてきた。

ジョンは〝僕もきみが大好きだ〟と返して両腕を差しのべるかわりに、怯えて後ずさりした。

「でも、どうして禁書なんです」とジョンは訊いた。シェイクスピアを読んでいる人間に出会ったことで興奮して、ほかのことは当面忘れていた。  ムスタファ・モンドは肩をすくめた。「古いからだよ。それがおもな理由だ。ここでは古いもの必要としていない」 「美しいものであってもですか」 「美しいものはとりわけ必要がない。美は人を惹きつける。われわれはみんなが古いものに惹きつけられるのを望まない。新しいものを好きになってほしい。」

「"フォード様はみずから助くる者を助く"」 ヘルムホルツはそう言うと嬉しそうに笑い、群衆の中を押し進みはじめた。

「最適の人口構成は氷山をモデルとしたものだ」とムスタファ・モンドは言った。

「九分の八が水面下、九分の一が水面上」

「水面下の人たちは幸福なんですか」

「水面上の人たち以上に幸福だ」

「あの子たちは〈スラウ火葬場〉から戻ってきたところです......死への馴らしは壜出し後18カ月から始める。子供はみんな週に二日、午前中を終末医療病院で過ごします。そこにはすこぶる愉しい玩具が数多くあるし、人が死んだ日にはチョコレートクリームが出る。子供たちは死というものが当たり前の出来事であることを学ぶんです」

「要するにきみは」とムスタファ・モンドは言った。

「不幸になる権利を要求しているわけだ」

「ああ、それでけっこう」

ジョンは挑むように言った。

「僕は不幸になる権利を要求しているんです」

「不幸な偶然から不愉快なことが起きた場合は"ソーマの休日"が忘れさせてくれる。ソーマは怒りを鎮め、敵と和解させてくれ、忍耐強くしてくれる。昔ならそんなことができるようになるには多大な努力と長年の精神的訓練が必要だった。それが今では半グラムの錠剤を二、三錠呑むだけでいい。誰でも円満な人格が持てる。ひとりの人間が持つモラルの少なくとも半分は壜ひとつで持ち運びできるんだ。苦労なしで身につくキリスト教精神――それがソーマだ

すばらしい新世界

すばらしい新世界

  • オルダス・ハクスリー/黒原敏行 訳
  • 定価(本体1,048円+税)
  • ISBN:75272-9
  • 発売日:2013.6.12
  • 電子書籍あり