ジナイーダ。それが彼女の名前。そして少年は人生の苦しみを知った

初恋

初恋

トゥルゲーネフ    
沼野恭子  訳   

公爵令嬢ジナイーダに恋をする少年ウラジーミル。だがある日彼女が誰かに恋していることを知る——。

作品

きわめて西欧的な作風で知られるトゥルゲーネフ。訳者・沼野恭子は従来の翻訳と一線を画すため、主人公の語り口を生かす会話体を採用して、年上の女性に対する少年の揺れる心情を新たな形で表現することに成功した。ロシアの自然描写も素晴らしい。訳者いわく「昔からの愛読書だった」この作品は、女性によるトゥルゲーネフの清新な翻訳として貴重であり、既訳にはない光彩を放っている。

トゥルゲーネフは、生前、自分の全著作の中でこの作品を「いちばん愛していた」と語っていたという。帝政ロシアの農奴制がいましも崩れ去ろうとする激動期は、作者を過去の郷愁の世界に誘い、甘く、憂愁に満ちた、この自伝的中編の誕生のきっかけになった。


物語

16歳の少年ウラジーミルは、ある日、隣に引っ越してきた公爵令嬢ジナイーダに一目惚れする。年上の女性への思慕の念は日増しに募り、取り巻きの青年たちと恋のさや当てが始まる。しかし、あるとき彼はジナイーダが恋に落ちたことを知る。

イワン・セルゲーエヴィチ・トゥルゲーネフ    И.С.Тургенев
[ 1818 - 1883 ]    ロシアの小説家・劇作家。深い教養と冷静な観察力で、ロシア社会が抱える問題をテーマに幾多の名作を書いた。若き日に無政府主義者バクーニンとの共同生活を経験し、50代ではフローベールやゾラと交際するなど、ロシアとヨーロッパの作家、思想家との交流を通じ、両者の懸け橋となった。主作品に『貴族の巣』『ルージン』『父と子』などがある。
[訳者] 沼野恭子    Numano Kyoko
ロシア文学研究家・翻訳家。東京外国語大学教授。主著に『アヴァンギャルドな女たち--ロシアの女性文化』『世界の食文化〈19〉ロシア』『ロシア文学の食卓』、主訳書に『初恋』(トゥルゲーネフ)、『ペンギンの憂鬱』(クルコフ)、『それぞれの少女時代』(ウリツカヤ)、『墜ちた天使--アザゼル』(アクーニン)ほかがある。