やる気がない、何もしたくない、会社(学校)へ行きたくない……。「五月病」かも、と思う人たちなんか足元にも及ばない“超弩級”の怠け者が、今回取り上げる作品の主人公オブローモフです。本作品は19世紀ロシアの作家ゴンチャロフが書いた長編小説『オブローモフ』のなかの一章を独立させたもので、4部のプロットから成る小説全体の抄訳が付いています。
このオブローモフという人物、役所も辞めて何一つ行動をしない怠惰な日々を送る青年貴族なのですが、朝、目覚めてもベッドから起き上がる気力も湧かない。そんな彼が微睡(まどろ)むうちに見る夢が「オブローモフの夢」です。長編小説完成の10年前に発表され、作品全体の土台となった章ですが、いかにしてこのユニークな主人公が誕生したのか、その生い立ちが詩情豊かな文章で描かれています。
作者のゴンチャロフは有能で活動的な官吏生活を送りましたが、彼が生んだオブローモフはまさに正反対。行動力ゼロ、やる気なし、決断力ゼロ。それでも、いや、だからこそ、ロシア人だけではなく多くの読者に今も愛され続けているのです。
今回はこのオブローモフという人物、そして作品の魅力について、訳者の安岡治子さんをお迎えして、存分に語っていただきます。
(聞き手:光文社古典新訳文庫・創刊編集長 駒井稔)