8月から全5巻で刊行中(第3巻まで刊行済)の『椿説弓張月』は、江戸時代の大作家、曲亭馬琴が葛飾北斎とコラボして発刊し、大ベストセラーとなった読本です。『保元物語』(軍記物)に登場する伝説の強弓の武将・源為朝(みなもとの・ためとも)を主人公とし、日本と琉球を舞台に琉球王国再建の秘史を壮大なスケールで描いた史伝物で、主人公の為朝は鎌倉幕府創設の頼朝(よりとも)、弟義経(よしつね)の叔父になります。
保元の乱で崇徳院方について敗れ、配流先の伊豆大島で自害しましたが、没後に、琉球に渡って王になったという伝説が生まれて、この伝説をもとに馬琴がもう一つの英雄譚として創作したのが本作品です。抜群のストーリー展開に加えて、個性豊かな家来たちや“クセ強”の悪役たちの存在感、また戦闘シーンでの躍動感と人情味あふれる親子、主従の愁嘆場など、読みどころがたっぷりの傑作で、『八犬伝』と並ぶ馬琴の代表作でもあります。
今回の読書会では、本作品の魅力についてはもちろん、全点収録した北斎の挿画について、また馬琴の工夫でもある「左右ルビ」(音・訓あるいは意味ルビ)の趣向や七五調を活かした訳文についても、訳者の菱岡さんに存分に語っていただきます。
(聞き手:光文社古典新訳文庫・創刊編集長 駒井稔)